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萩の七化け 技巧と本質
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私は、やきものの本質は 焼き、土味、姿だと思っています。 志野などの美濃焼、唐津焼、備前、信楽や伊賀に次いで好きなのが萩焼です。 萩焼を収集し、使ってみて、最近わかったことがありましたので述べたいと思います。やきものに詳しい方や萩焼の専門家には常識的なことかもしれませんが、今まで不思議に思っていたことを理解できたのです。それは萩茶碗の特徴とも言われる「萩の七化け」に関することです。
 冒頭の写真左は田原陶兵衛の茶碗で枇杷色の美しい陶兵衛粉引と言われるものです。全体に柔らかさがにじみ出ていて素直でてらいのない素晴らしい茶碗です。使ってみるとすぐに釉調の変化に気が付きました。さっそくシミが出てきたのです。この変化は私が製作する志野茶碗に比べて明らかに速いのです。さらに5年、10年と使い続けてどのように変化するか楽しみです。一方でこのきれいな枇杷色を維持するためには茶碗を使わないで保管することが一番だと思いました。どう思われますか?
 冒頭の写真中央は波多野善蔵の萩茶碗です。薄い白萩釉がかかり釉調に変化があって面白い茶碗だと思ったのですが、手に取って使ってみると「これは」という訴えかけるものが皆無でした。珍しいことです。高台まわりの激しく変化に富んでいる土肌についてどのような土を使っているのかという疑問が湧き(下記写真参照)、調べてみることにしました。
現代日本の陶芸第9巻 講談社(1983年)に作品と作家紹介があります。また、陶工房No.14(1999年)「特集 萩 波多野善蔵」に井戸茶碗の作り方が詳細に説明されています。本記事でわかったことは、とても優れた技術を持っていて、かなり技巧的だということです。例えば、井戸茶碗をろくろ成形して生乾きのときに白い土を全体に掛け、生掛けをしてから素焼きをします。この白化粧は黒く焼きあがる素地を単に白くするためだけのものではなく、「素地の鉄分と反応させて土の色を柔らかにし、萩茶碗特有の枇杷色を発色させる。」ということでした。特に、白化粧の濃淡や流れによってさまざまの釉調、模様を作り出すことができるのです。もちろん、焼成時の酸化炎と還元炎によって素地や釉薬の発色も異なってきます。すなわち、巧みな技術を用いて化粧土を装飾した茶碗なのです。
 「萩の七化け」は茶事を重ねるごとに茶碗の釉調に変化が生じることを言います。萩焼の胎土は耐火度が高く短時間で焼きあがります。また、焼締まりにくい土であり、使っているうちにお茶が染みて変化していくとも言われます。特に、上述した技法で造られたもの、すなわち薄い化粧土の上に透明釉を掛けたものは使用による変化が顕著だと思います。
 冒頭の写真右は坂田泥華の萩茶碗です。この茶碗は、妻が週に3回の頻度ですでに10年以上使っています。しかし、外周には全くシミはなくてきれいな状態です。もちろん内側の見込みにはお茶が染みて貫入が入っています(下記写真参照)。この貫入は使い込んで味合いが出たものと考えています。この変化の速度は、化粧土を用いた粉引きのものとは明らかに異なります。 泥華の茶碗造りは技巧的なものではなく、土、釉薬、焼成によるシンプルなものではないでしょうか。 泥華は著書 カラーブックス日本の陶磁12 萩の結びで次のように述べています。 「萩焼を鑑賞する時、その作品がどのようにして生まれてきたかを、歴史を踏まえ、心を潜め、打ち返し打ち返し見ていただきたいものである。必ず作品は貴方に美しく楽しい対話を語りかけるに違いない。」 私がやきもの、特に茶碗に求めるのはこのような対話なのです。

陶兵衛粉引の枇杷色
陶兵衛粉引の美しい枇杷色だが
波多野善蔵作萩茶碗の高台
波多野善蔵作萩茶碗の高台
坂田泥華の萩茶碗と著書
坂田泥華の萩茶碗と著書
10年以上使った泥華茶碗の見込み
10年以上使った泥華茶碗の見込み

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