安らぐ 白萩釉茶碗

白萩釉と言うと先ず、三輪壽雪(Miwa Jyusetu)の鬼萩割高台茶碗を思い出します。以前に、茨城県陶芸美術館で三輪壽雪展が行われた時には2回も見に行き、図録やDVDを購入しました。迫力があって、茶碗と言うよりも造形品の様です。茶碗としてはちょっとやりすぎの感がありますね。だだ、どっぷりと掛かった白萩釉の質感が何とも言えず、好きになりました。私が取り組んでいる志野茶碗も白いのですが、白萩釉と志野釉では質感が全く異なります。志野釉は主原料が長石なので基本的にカチッとした雰囲気で緋色が柔らかさを出します。一方、白萩釉は藁灰が主原料ですので、釉薬の調子に柔らかさが出ます。
白萩釉について日本の陶磁12 萩 坂田泥華著を引用しますと、「粳米(うるち)の藁を焼き、粉砕水漉し、土灰を合わせ白濁釉を造る。藁灰10パイ、土灰7ハイ、長石釉3バイ位が普通であるが、窯積の位置により土灰を加減して調整する。」とあります。
冒頭の写真の中央は、宇田川玄翁(聖谷)の白萩茶碗です。外径11.6cm、高さ8.6cmと少し小ぶりです。この白萩釉は光沢がなくて渋くて好きです。白萩釉と言っても釉薬の調子は作家によってさまざまです。
この茶碗をぐるっと回してみますと、方向によって白萩釉の調子が変化して楽しめます。釉調が均一にならないように下地の土を工夫しているようです。さらに炎の流れによって釉調が変化しているのかもしれません。陶工の優れた技量を感じます。その姿は漏斗の形で、高台が大きくなかなかバランスが良いと思います。そして、高台は2つ割の割高台です。一般的に、萩茶碗の割高台と言うと3つ割りか、鬼萩の4つ割りが多いと思います。私の場合、茶碗のどこを正面にするのかを悩むことが多いのですが、この茶碗の正面はすぐに決まりました。とても珍しいことです。所有している茶碗の中には 未だにどこを正面にして一服するかを悩むものがあります。
さて、一服したときに気がついたことがあります。茶をたてて茶碗を手に取るとしっとりとした温もりが伝わります。これは柔らかな白萩釉と土によるものです。高台の土は見た目はがっしりとして締まっているようですが、実際は極めて吸水性があります。この茶碗のぬくもりから萩焼の良さを再認識しました。こういった新たな発見があることは嬉しいことです。
2020年2月にコロナウイルスが日本に入ってから2年近く経ちましたが、政府の無策に翻弄されてほんとうに多くの方が亡くなったと思っています。さらに2021年11月には新種のオミクロン株が発見されて国民は依然として不安に苛まれています。
大袈裟かもしれませんが、この茶碗のしっとりとした土と釉薬の温もりはこのような世相の中で私に安らぎを与えてくれます。



