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 信楽花入 高橋楽斎窯
点線画像

やきものに興味をもった頃 たぶん1994年頃だと思いますが、妻と一緒に東京から長距離ドライブで信楽に行ったことがあります。この時、高橋楽斎(4代)、上田直方、神山清子さんの窯を訪問しました。 旅の目的は、信楽の茶碗を購入することにあり、茶碗を中心に見て回りました。しかし、これはと思う茶碗はほとんどなくて しかも高価でした。高橋楽斎窯で 比較的小ぶりで、自然釉は全くかかっておらず、白い土肌と緋色の対比の美しい信楽茶碗が他に比べて安価であったので購入することにしました。楽斎氏がその場で墨をすって箱書を書いてくれて、その手慣れた姿勢に感動しました。私達以外に退職のお返しに沢山の作品を購入している人がいました。当時、やきものはブームでとても人気がありました。展示室だけではなくて、庭にも多くの作品がおいてあり、その中には伊賀焼の名品「破れ袋」の写しの水指がいくつかありました。おそらく、わざと雨ざらしにして古風を出そうとしていたのかもしれません。また、庭にはダックスフンド犬がマイペースでのんびりくつろいでいました。
初めて購入したこの茶碗は、数回使ったきりで実家に飾っていましたが、その後も縁がなくて手放してしまいました。やきものは本当に良いと思ったものを求めるべきで、せっかく旅行ややきもの探訪に来たのだからと妥協して購入すべきではないことを学びました。気に入ったものが高価であれば、その作品を目に焼きつけて諦めればよいのです。

冒頭の写真中央の信楽花入れは、高橋楽斎の作品で最近びっくりするほど安価で購入しました。その姿は、伊賀焼の「聖」という花入れに似ていますが、信楽特有のものかと思います。この人形の花入れは、腕を大きく造っていてとてもバランスが良いと思います。その腕は横から見るとかなり薄く造られています。一般的に信楽の花入れは、ずんぐりむっくりの単調な姿のものが多いのですが、この花入れは伊賀焼よりの技巧的な造りです。
信楽や伊賀の花入れの面白さは、見る方向や場所によって焼きが大きく変化することにあります。この花入れを例にとると、おもて面は自然釉がビードロ(緑色)になってきれいです(下記写真1)。詳細に見ますと、頭部は緑色のビードロが溜まっていて下部にむかって流れています。このビードロは見る角度によって、緑色から青色に変化します。腰から下部は自然釉が黒く焦げてただれて 桃山時代の伊賀焼の趣があります。一方、裏面は自然釉は全くかかっておらず、信楽焼独特の土肌にプツプツと細かな長石が噴き出しています(下記写真2)。花を入れて表裏のどちらの面も楽しめます。また、ひっくり返すして底を見ると、陶印の「ら」の文字が彫られていて 褐色の信楽の素朴な土の良さを堪能できます(下記写真3)。このように私が信楽の花入れを選ぶポイントは、姿、土、焼肌の変化などを多面的に楽しめるかどうかにあります。私は、特に「ひと形」の花入れが大好きで、すぐに欲しくなってしまいます。冒頭の写真左のものは、伊賀焼の名品「聖」の写しで、杉本貞光氏の若い頃の作品かもしれません。同写真右端の人形型花入れは、3回目の信楽探訪にときに個人作家の窯元で購入したものです。頭部の丸みといい、とても愛らしい姿です。
これら信楽の花入れの楽しみかたは、花を入れて鑑賞するだけではなくて他にもあります。私は、雨が降るとベランダに花入れを出して降雨をあてておきます。こうしますと、土肌やビードロがしっとりとして、信楽のやきものの良さがさらに強調されます。微妙な変化を楽しむと申しましょうか。加藤唐九郎は著書のなかで「水のきく器、水で生きる器がいい。水指は水をいっぱい張ったとき外へ滲みだして露が光っておるようなのが一番じゃ。」と言っています。

書評ノートと万年筆
 高橋楽斎の花入れ(おもて面)
Excel Sheet
 裏面~いかにも信楽!
Excel Sheet
 底の陶印と土味

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