美濃の茶陶 サントリー美術館

2019年9月に サントリー美術館で開催された「黄瀬戸 瀬戸黒 志野 織部 --美濃の茶陶」を見に行きました。
充実した展示内容でした。
昨年の根津美術館での「新・桃山の茶陶」展は、京都から出土した陶片などをベースに学術的な見地から美濃焼をレビューしようという試みでした(詳細は下記参照ください)。
一方、本展覧会は 各地の博物館が所有している名品、昭和の数寄者の旧蔵品や個人蔵のやきものを展示したものです。今まで本でした見たことがない いわゆる名品と呼ばれているものを多数観ることができて良かったと思います。
やはり、本で観るのと実物は全く違うのです。例えば、国宝の志野茶碗「卯花墻」(うのはながき)は 見る方向、角度によってとらえどころのないほどダイナミックに姿が変化します。その辺は実物を見ないと実感できないと思います。
大好きな黒織部茶碗は、単に「歪み」という言葉で言い尽くせないほど複雑怪奇です。美濃焼園のご主人がおっしゃったように「ろくろの軸を3次元的にずらしながら変形させている」のです。こういった見方をすると 桃山時代の陶工の凄まじさを感じます。
特に興味深かったのが、サントリー美術館所有の六曲一双の巨大な南蛮屏風です。大砲を積んだ南蛮船から荷揚げし、南蛮人の行列が町中を闊歩する様子が鮮やかに描かれています。美濃陶はこんな時代に造られたやきものなのですね。
また、昭和の巨匠である荒川豊蔵と加藤唐九郎の代表作が出品されており、こちらも楽しむことができました。
さて、ここで私の展示会での鑑賞方法を述べたいと思います。ただ漫然と最初から最後まで作品を観ていてもその瞬間に感動してもそれがほとんど残りません。「あれは良かった」で終わってしまいます。
そこで、私は展示リスト(展示場所と各作品名などが記載された1枚の紙)に、気になった作品のみチェック(〇、◎、×)を入れるようにしています。いわば 名品の採点者になるのです。それから 何が良いかを記入しておきます。例えば、「釉調が良い」、「サギの絵がかわいい」、「正面のみ歪む」、「大きく自由な橋の絵」といった特徴を記入します。特に、黒織部茶碗などは 上から見た形状を描いておきます。時には、名品であっても「× 薄く大きいだけ」といった酷評も記入します。
こうしておくと 後に図録の写真を見たときにその時々の感動が蘇ってきて楽しいし、やきものの理解もさらに深まります。
そのため、素晴らしいと思った展覧会では 値段が多少高くても図録を買うようにしています。
なお、上記写真は美濃焼ミュージアムにて触れることができる陶片です。許可を得て写真を撮らせてもらいました。
過去の展覧会から
2018年末に根津美術館において開催された「新・桃山の茶陶」展は予想以上に良かったです。
素晴らしいと思ったのは、志野秋草文水指(No.21)、備前三角花入(22)、美濃伊賀耳付水指(62)、鳴海格子文水指(58)、伊賀耳付水指(83)で、特に、志野秋草文水指は、志野釉薬がしっとりとしていて光沢を放ち、とても400年前のものとは思えない雰囲気でした。
また、京都三条瀬戸物屋町から出土した陶片が、出土した場所(中之町、下白山町、福長町、油屋町)ごとに展示されており、やきもの造りを志す私にとっては、たいへん参考になるし、大胆な黒織部などはうれしくて堪えられないものでした。
購入した図録の折り込みには、「桃山の茶陶出土地探訪」という素晴らしいエッセイが載っていて、京都三条界隈を歩き回る楽しさを実感できます。
そうそう、図録で気になったのが一部の作品の写真がプアーなこと(No.22,43,58,62)。せっかく実物を見て感激したのに、図録の写真を見てがっかりしてしまうのは、私だけではないようです。企画側は、所有者に交渉するなどして何とかしてほしいと思います。
海外からの人が多く、「桃山陶」に興味を持つ方が増えたことを感じました。本ホームページの英語版も作ろうかと思いました。
園内は秋も深まり、茶室をめぐる散策を楽しみました。