焼き物の本(坂田泥華著)

HomePageを作るようになって、やきものの事を調べるために本を読む機会が増えました。その中で、特におすすめしたいものがあります。
古い本ですが、カラーブックス 日本の陶磁12 萩 坂田泥華著 保育社(昭和54年)が好著です。
この本の前半は、萩焼のやきものの写真とその見どころを簡単に説明しています。
後半は、坂田泥華氏の執筆で 萩焼の起り(歴史的背景)と、萩焼の陶土と技法を詳細に説明します。興味深く、面白い内容です。以下、その一部を紹介します。
●「萩焼は、文禄慶長の役で連れてこられた朝鮮の陶工 李勺光(りしゃっこう)が始めたと言われる。李勺光が開窯の準備をしているうちに関ケ原の戦いで毛利輝元は防長の二州に領地を削減され、萩に入府した。その折、李勺光の一党も伴われて城下に開窯し、萩焼が始まった。~」
●陶土の説明も詳しく、面白いエピソードがあります。萩城下の開窯したのですが、土の産地と窯場が離れています。大道土(防府市台道が産地)は60Kmの遠路を馬の背で運んでいたため、貴重な土であったようです。馬の背に一体何キロの土を積めたのでしょうか? メール1本で日本全国の土を入手できる現在とは大違いですね。
●やきもの造りの各工程を写真付きで丁寧に説明しています。特に、ろくろ成形は 坂田泥華氏が井戸茶碗を蹴ろくろで造る姿が載っていて貴重です。
●坂田泥華氏は、この本の結びで次のように述べています。
「このように積み重ねられた仕事と、土・釉薬・焼成とが渾然一体になって、初めて美しい萩焼が生まれる。萩焼を鑑賞するとき、その作品がどのように生まれてきたかを、歴史を踏まえ、心を潜め、打ち返し打ち返し見ていただきたいものである。必ず作品は貴方に美しく楽しい対話を語りかけるに違いない。」
このような思いで造られた作品を堪能してみたいと思いませんか?
このシリーズで他に良いと思うのは、日本の陶磁4 美濃 加藤卓夫著です。この本は、これまで世に紹介された いわゆる名陶とは別に、世に隠れた美濃の陶器の中心にその背景、作風、技術的な解説をしています。美濃焼の全体を把握するにはうってつけであると思います。加藤卓夫氏は優れた文筆家でもあります。他にもペルシャ陶器に関する「やきものシルクロード」がおすすめです。
やきものの本は、美術評論家や研究者が執筆するよりも、このようにその土地の優れた陶芸家が執筆する方が 内容にはるかに深みがあって面白いと思います。
なお、冒頭の写真中央は 坂田泥華作 萩茶碗です。妻が長年愛用しています。