卯の花と志野茶碗

桃山時代の志野の名碗に無地志野の銘「卯の花」と、国宝の銘「卯花墻(UnoHanagaki)」があります。
卯の花を調べると、空木(Utugi)の花のこと。開花は5月中旬から6月頃。白く清々しい花を咲かせる。古歌には月光のようとも雪のようとも詠われる。旧暦4月(卯月)ころ咲くことからこの名がある。茎が空洞なので空木ともいう。唱歌「夏は来ぬ」にも歌われているように、夏の訪れを感じさせる花です。
一、卯の花の匂う垣根に ホトトギス
早も来鳴きて 忍音もらす 夏は来ぬ
五、五月闇 蛍飛びかい 水鶏なき
卯の花咲きて 早苗植えわたす 夏は来ぬ
また、上述した茶碗に関して*解説書を見ますと、「本作(銘 卯の花)は志野釉の柔らかな白釉が鈴なりに咲き誇る白い花弁を、器面に生じた小さな孔(ピンホール)がおしべやめしべを連想させることから、この銘が付けられたのであろう。」とあります。
なんとも美しい銘であり、白い志野釉の釉調から卯の花を想像したのですね。
銘 卯花墻については、「鉄絵文は垣根のように見える。その上に掛かる志野釉を卯の花に見立て卯花墻の銘が付いたとされる。」と説明があります。
以前から卯の花を見たいと思っていました。そこで、5月20日に市内の21世紀の森公園へ卯の花を探しに出かけました。思いの他地味な花で意識していないと通り過ぎてしまいそうです。散歩道の脇に数か所咲いていて写真に撮りました(冒頭の写真)。ところが、帰宅してから写真を詳細に見ると、ほとんどの画像がピンぼけでした。撮影時に風で花が揺れていたのでそのせいかとも思いましたが、それだけではないようです。同じ敷地の花畑に植えられていた赤紫色のムギナデシコの花などはしっかりピントが合っていました。おそらく、卯の花は白色で花弁にコントラストが付かないためにカメラのオートフォーカスがうまくいかなかったのではないかと思います。
森公園からの帰りに家の近くの路地で卯の花が鈴なりに咲き誇っているのを見つけました(下記写真)。毎日通っている道なのに---。気持ちに余裕のない生活を送っているからでしょうか? これが卯の花だと意識していると、きっとここにもあそこにも見出すことができるのではないでしょうか?
*茶の湯の茶碗 第三巻 和物茶碗Ⅰ 淡交社 令和4年3月発行

