薬師堂をめぐる旅(福島県)
斎藤清の版画 会津の冬に 薬師堂を描いたもの(1958年製作)があります。
詩人の竹内智恵子さんの解説によると、
「薬師様は、地蔵尊とともに子育ての神様として農村では信仰されている。幼児2歳のとき、二ツ子詣りとして、薬師様に詣でる習慣もある。薬師様は子供だけでなく、年寄りの心の休み場でもある。孫を遊ばせながら、ばあさまたちは三人、五人、休み石の上で世間話をする。嫁入りした娘の自慢話、嫁ごの愚痴、じいさまの悋気の話、堂のめぐらに若返った笑いごえがたつ。」
以前に、よく幼い息子をバイクに乗せて福島県の山登りに行きました。息子は4歳ぐらいだったので歩行時間が2~3時間程度の景色の良いハイキングコースを選んで歩きました。そうそう、登山道で大きな熊に遭遇し、息子を背負って息せき切って逃げ帰ったこともありました。戻った場所は何と「熊の湯」でした。
さて、バイクでの帰路、息子は必ず疲れて寝てしまうのです。しかも走っているバイクの上で---。オフロードバイクのタンクとシートの間にちょこんと乗った息子は、そのうち、頭が右へ左へと揺れだして運転が危険になります。休めそうなところを探すと薬師堂があったので、境内の濡れ縁に寝かせました。近所の婆さんが「ここの神さまは子供が大好きなので喜ぶよ。しばらく休んでいきなさい。」と言ってくれました。こんなことが2、3回あったと記憶しています。突然の夕立で雨宿りをしたこともあります。まさにバイク旅のオアシスですね。斎藤清のこの版画は、当時 お堂で声をかけてくれた婆さんや爺さんの優しい雰囲気を思い起こしてくれます。
かつて休ませてもらったお堂をめぐる旅をしようと思い立ちました。コロナウイルスの影響もあって、2020年7月末になってやっと猪苗代町東部の田園地帯にあるお堂を見て回ることができました。
雨宿りをしたことのある関脇の「優婆夷堂」は当時のままでした。白く粗い木肌の濡れ縁に腰かけて休みましたが、狭い村道のすぐ隣には広い広域道路ができていて自動車の往来が頻繁で、かつての静かな佇まいは失われてしまいました。
川桁から樋ノ口に向かう323号の広域道は、正面に磐梯山を望み 広い田園地帯をひたすらまっすぐ走る大好きなツーリングルートです。この途中にある下館地区は良かったです。「十王堂」と呼ぶ薬師堂の前には、ブランコやシーソーがあって現在でも子供が遊んでいるようです。8月16日にお祭りがあります。近くには「長瀬産業組合」と描かれた古くて立派な建屋の支所や、かつての沼尻軽便鉄道の「あいづしもだて駅跡」の案内もあってなかなか楽しめました。
今回の旅で気が付いたことがあります。それは、この地域の民家のいくつかに真新しい白い蔵があったことです。おそらく、新たに白い蔵を造ることになんらかの意味があるのでしょう。この蔵にはいったい何を入れるのでしょうか?