虎渓山永保寺
永保寺無際橋
鼠志野茶碗

土味に酔う(3) 志野、瀬戸黒の土

2022年1月投稿

土はやきもの造りの基本です。日本のやきものの特色はその土地によって産する土がまったく異なることです。例えば、信楽、美濃、萩、備前、唐津、益子などの産地によって土の種類や持ち味が違います。
この「土味に酔う」の特集では、茶陶に関して現代の陶芸作家の作品から「こだわりの土味」と思われるものを観ていくことにします。第3回は志野、瀬戸黒の土です。

 志野、瀬戸黒の土
荒川豊蔵氏は著書の中で志野の土について以下のように述べています。
「 志野の土は、粘り気の少ない、ザングリとした土で俗にもぐさ土(百草土)と言う。多少砂気があってさくい土である。山から掘ってきたものを乾かし、はたいてふるった程度で濾さないで使った。久尻、定林寺(桃山時代の窯の場所)辺は五斗蒔を使っている。五斗蒔は同じ山でも土の種類が多く細かいのや粗いの、鉄分の多いもの、少ないものなどあり、織部もまたここの土である。大萱・大平は、大平付近の土を使った。やわらかな土の感じがでるためには、土があまり焼締まらない方が良い。」
 志野茶碗の土は もぐさ土が使われます。しかし、桃山時代の茶碗の焼きしまった土を見ると、現代作家のものとは全く違うことがわかります。現代の美濃焼の作家は優れた桃山陶を参考にしながらもそれを目指すのではなくて、現在 手に入る土や材料を使って創意工夫をして雅味がある作品を造っています。土の話をしましたが、志野釉の材料も同様であって桃山時代につかわれた風化長石と同様のものは枯渇しており入手できないと言われています。
 最近、志野茶碗と言いながら もぐさ土はおろか、美濃の土とは全くかけ離れた土を使って作品を発表している作家がいます。これは志野釉を掛けた茶碗であって、志野茶碗とは全く違うものだと思っています。一般的に誤解を生じないように、この場ではっきりと述べておきます。
本ページでは美濃焼の現代作家の作品と自作のものからその土味を観ていきたいと思います。このページは特にオタク度が高いと思います。
なお、もぐさ土の原土については Blog 「もぐさ土への期待」で紹介したことがあります。
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志野茶碗 山の端

2008年、2009年に大窯で2回焼成しました自作の茶碗です。土と釉薬は志野焼を始めた頃から瑞浪市の熊谷陶料から購入しています。かつて、熊谷陶料へは志野釉などの材料を学ぶために釜戸駅から歩いて訪問したことがあります。
この茶碗の志野釉はおとなしいのですが、高台まわりの土味は 粗くてさくい「もぐさ土」の特徴が良く出ていると思います。細かな長石が混じっていますが、これはあえて加えています。

瀧口喜兵爾 黒織部茶碗

良質のしっとりとした"もぐさ土"を使っていて、おちょぼ口のような高台も味があります。 やや大振りの沓型茶碗ですが、要所要所を丁寧に造っているのがわかります。桃山陶の雰囲気を持つ黒織部茶碗です。

北大路泰嗣 瀬戸黒茶碗

やや古色をおびた高台まわりの土がとても好きです。

豊場惺也 志野茶碗

ざっくりとした白いもぐさ土で高台はやや緋色を帯びています。荒川豊蔵氏の志野茶碗と同様の土ではないでしょうか? 私が所有している荒川豊蔵氏のビデオには豊蔵氏の脇で豊場氏が土をスコップで掘っている映像があります。

堀一郎 志野ぐい呑み

堀一郎氏の志野の土は独特です。少し赤みを帯びた土で、このため志野釉の発色はピンクがかっています。

紅志野茶碗

1998年に土岐市の元屋敷窯跡に近い寺の境内で拾った土です。おそらく土壁を崩して庭に捨てたものではないでしょうか? 少々鉄分が入った土で褐色の細かな粒が混じっています。このため志野釉は全体に薄い紅色になりました。 この土で紅志野を2椀焼いて、1つは友人に譲りました。

志野茶碗 橋の絵

この土は もぐさの上層土と言われるものです。もぐさ土の地層の上層にごく少量だけあって貴重な土だそうです。 やきもの造りを始めた頃に、ガス窯を製造、販売していた杉本昇氏から少しだけいただいたものです。志野の発色が良いとのことでした。その言葉にたがわず 素晴らしい釉調になりました。

瀬戸黒茶碗 里帰り

この茶碗も いただいたもぐさの上層土を使ったものです。自宅のガス窯(上記杉本氏から購入した窯)で引き出し焼成をしました。きめの細かい良い土ですね。この土は釉薬の調子が均一にならず、ほどほどむらが出て味が出ると思います。まさに 一期一会の土です。

志野茶碗 千鳥文

最初に述べましたように もぐさ土を岐阜県瑞浪市の粘土屋さんから購入していますが、何しろ自然のものですので購入するたびに異なります。この茶碗の土はその中でも最も気に入った土です。このように土が良いと志野釉の発色も良くなります。

桃山陶 黒織部茶碗の陶片

美濃焼ミュージアムで許可を得て撮影した桃山時代の黒織部茶碗の陶片です。高台部の土が露わになっていて当時の土を観察するのに好都合です。やはり、現代陶の土と異なっていますね。けっこう焼きしまっている土です。