永保寺の無際橋
永保寺の境内にて
守谷宏一作 志野香合と小皿

美濃の陶工 守谷宏一

2022年11月投稿

 美濃の思い出
伝統的な美濃焼の陶工 守谷宏一氏の特集を組んでみようと思います。 私が初めて美濃地方を訪れてから30年近く経ちます。初めての探訪からしばらくして 毎年秋に安土桃山陶磁の里の大窯で志野を焼くようになり、このときに国道19号沿いにある美濃焼園に立ち寄ってご主人とやきもの談議をするのが恒例になりました。 別館の工芸館の談話室のテーブルの上には、守谷宏一さんの茶碗や陶芸の解説書、陶芸展の図録がおかれ、あれやこれやと議論したものです。特に、守谷さんの黒織部茶碗や瀬戸黒茶碗を次から次へと出してもらうと私は嬉しくなってしまいます。 ご主人の渡邉さんは守谷さんのろくろ成形のうまさを強調されていました。ご主人は「桃山の黒織部の茶碗を見ると、ろくろの軸が茶碗の高さによって変化しており、その軸方向は3次元的に変化している」とおっしゃっていましたが、まさにその通りだと思いました。手回しろくろの減衰していく1周の中にろくろ目の変化をのせるということでしょうか。美濃でこういったろくろ引きができているのが守谷宏一さんだとおっしゃっています。
 一度だけ、美濃焼園のご主人に誘われて、守谷宏一さんの陶房へ窯出しを見に行ったことがあります。春先の晴れ渡った寒い日でした。玄関の正面には 美濃伊賀の花入れに桃の花が生けられ春の訪れを待っているかのようでした。 守谷さんは窯出しした作品を棚板に載せて次から次へと見せてくれました。志野茶碗15碗、鼠志野茶碗15碗、瀬戸黒茶碗と黒織部茶碗15碗、志野の鉢、美濃唐津の花入れなどでしたが、本当に欲しいと思ったのは瀬戸黒茶碗1碗のみでした。
守谷さんに頼んで、焼成窯を見せてもらいました。一般的な登り窯や穴窯とは異なり変わった構造をしていました。おそらく、師匠である加藤十衛門の流れをくんだ窯の構造だと思いました。 夕方まで三人で楽しくやきもの談義をしました。帰りがけに、展示室に飾っていた美濃伊賀の茶碗と、玄関に飾っていた美濃伊賀の花入れを購入しました。せっかく窯出ししたものを求めず ちょっと申し訳ない気分でした。 気が付くと大萱はしんしんと冷えていました。
 その後、家にある大量のやきものを処分した一時期があって、守谷さんの志野茶碗などを手放してしまいました。今ではとても後悔しています。最近、少しずつ守谷さんの作品を収集しています。本ページでは、すでに手放してしまったもの(写真は残っている)も含めて特集を組むことにしました。黒織部と瀬戸黒、志野、美濃伊賀に分類して掲載いたします。
なお、下記作品のうち品番のないものは手元にございません。

 黒織部と瀬戸黒茶碗
守谷さんの作品の中で最も好きなのが黒織部茶碗です。造形が素晴らしいし、ろくろさばきも見事であると思います。
瀬戸黒茶碗は凛としていて桃山陶を想起させてくれます。

黒織部茶碗 守谷宏一 品番mor01

この茶碗は、意匠、焼き、姿、手取りと素晴らしいです。絵付けも面白いですね。茶碗の内側には、鉄釉が変化して鉄さび色に変色している部分があります。上から見ると、おむすび形をしていて愛嬌があります。
黒織部や瀬戸黒では最高峰だと思います。守谷氏の茶碗は多治見市の美濃焼園で販売しています。

沓形黒織部茶碗 守谷宏一 品番mor02

沓型の茶碗です。窓の絵も面白いですね。多治見の美濃焼園で購入しました。
この茶碗を作者に見せたら驚くと思います。実は、使い方を間違えて茶碗を汚してしまいました。きれいにしようと思い、自宅のガス窯で素焼きをしたら大失敗。その後、条件を変えて2回ほど引き出い焼成をしました。茶碗の汚れは取れましたが、釉薬の色や調子がオリジナルとかなり変わってしまいました。

黒織部茶碗 守谷宏一

この茶碗はかなり歪んでいます。側面から見るとよくわかります。 子どもが描いたような不思議な感覚の絵ですね。たしか桃山陶に同様な絵があったかと思います。 この茶碗は引き出し焼成による窯割れが数か所あります。残念ながら手放してしまいました。

瀬戸黒茶碗 守谷宏一

低い高台、そして腰から真っ直ぐに立ち上がった半筒型といい伝統的な瀬戸黒茶碗の姿です。

 志野
守谷さんの志野茶碗は比較的小ぶりで優しい姿のものが多いと思います。人柄が表れている気がします。どちらかというと"向勢"の志野と言えますね。人によって、志野の持つイメージが異なるため 好みが分かれるのではないでしょうか? ゆったりとしたろくろ目が特徴です。
茶碗、ぐい呑み、小皿、香合を掲載しました。

志野茶碗 守谷宏一

守谷さんの作品の中では大きい方かと思います。手取りがよくて、絵付けも素晴らしいと思います。桃山陶の志野茶碗の住吉社の絵付けの写しですね。裏側の絵は鄙びた風情で好きです。ろくろ目がゆっくりとたおやかです。 この志野釉は、志野茶碗としては珍しく透明釉に近いです。

志野茶碗 守谷宏一

この茶碗の口縁は内側に閉じていて、ずんぐりむっくりとした器形です。網干の絵付けですかね。なかなか味があります。 不透明の白い釉薬のところどころにオレンジ色の緋色が出ています。

志野ぐい呑み 守谷宏一  品番mor06

だんごの絵が微笑ましいですね。 特に、志野のぐい呑みはお酒で汚れやすいので、使う上で注意が必要です。写真3のように高台脇の土が汚れてしまいます。

志野小皿 守谷宏一 品番mor07

5枚組の小皿で、直径は13.5cmです。 お茶の時に和菓子を盛るのに良い大きさです。 伝統的な絵が描かれていて、1点1点 緋色の出方が異なります。

鼠志野香合 守谷宏一 品番mor08

薄い鼠色に梅の文が描き落としで描かれていて、とても可愛らしい香合でしかも丁寧に造られています。 絵付けは志野小皿と同様の絵です。

志野香合 守谷宏一

筒型をしたシンプルな形状で直径6cmと小ぶりですが、高さは4.3cmで深さがあります。薄く施釉された志野釉には沢山のピンホールがあり、全体にオレンジ色の焦げた緋色が出ています。上蓋上面にはさりげなく鉄絵が描かれていて、なかなか良い雰囲気です。こちらの香合も丁寧に造られています。

 美濃伊賀
破格の造形美と言われる伊賀焼の意匠を美濃の土と釉薬を使って真似たのが美濃伊賀と言われます。 守谷さんの美濃伊賀の花入れには素晴らしいものがありますが、なかなか市場には出てきませんね。 ここでは茶碗、茶入れ、花入れを掲載しました。

美濃伊賀茶碗 守谷宏一

この茶碗は守谷さんの陶房の展示ルームに飾ってあったものを購入しました。 ところが、実際に使ってみると唐津焼の朝鮮唐津茶碗のように 自分には合っていませんでした。こういったこともあります。

美濃伊賀茶入れ 守谷宏一 品番mor05

とても渋い茶入れです。正面にはあえて釉を垂らして変化をつけています。
仕覆は3つあって裂地や文様の違いを楽しめます。左端は雲車紋変織、右端は唐桟と言うそうです。

美濃伊賀花入れ 守谷宏一 品番mor03

守谷宏一氏の陶房を訪ねた際に 桃の花を入れて玄関に飾ってあった花入れです。春の訪れを静かに待っているかのようでした。 不思議な姿をしていますね。正面下部が大きく割れていますが、水は漏りません(自然釉で水漏れは止まっています)。守谷氏によれば、この花入れは3回も窯焼きを行ったそうです。