伊賀焼の土肌
伊賀焼の土肌
信楽焼の土肌

土味に酔う(4) 信楽、伊賀の土

2022年3月投稿、2022年6月追加

土味に酔う のシリーズは、今回の「信楽、伊賀の土」で最終回になります。 信楽、伊賀の土味とその窯変は日本のやきものの白眉であると思います。

 信楽、伊賀の土
信楽の茶陶(茶碗、花入、水指など)の土には粗い長石が混じっています。これは原土、掘ったままの山土を使っているからです。一方、伊賀の土は信楽ほどには長石は混じっていません。伊賀の土は、木節土(kibushi)と言われ、土の中の木が腐食して土の粘力を高めています。よく練った木節の土は良く伸び、扱いやすいのが特徴です。特に、鉄分の少ない伊賀の土は白く発色しその色自体がとてもきれいです。この白色に自然釉のビードロ(緑釉)や炎による焦げが加わって窯変します。

 信楽の土について書かれた文献はあまりないのですが、日本陶磁大系8 信楽伊賀(平凡社)に古信楽の土に関する記載がありましたので参考までに以下抜粋します。
『 信楽の素地(kiji)には、概していわゆる木節土が多いが、木節とは粘土層の中に、腐り炭化した木片がまじっているのでいわれた名称で、木節のことを信楽や伊賀では「ウニ」という。~中略~ この炭化した木片は、有機物なので、焼成すると燃えてしまう。それで山土のままを使った古信楽では、この木片が燃えてとれてしまった痕が点々として残っている。なお木節土はいわゆる御本(gohonn)と呼ばれる赤斑ができやすい。というのは、木片が燃えて釉面に穴があくと、そこへ空気が入るからである。 古信楽の最大の魅力は、その肌の美しさである。古信楽も、古備前や古丹波同様、無釉の焼き締めであるが、特色とされる小石混じりの山土の素地は、穴窯の不完全な火回りで、赤く焼けた部分もあれば、白っぽいところもあり、あるいは黒く燻ったあたりもあり、その巧まぬ自然の変化は自在で、総じて鮮やかな火色のうちに絶妙の景を呈している。また、ざんぐりした小石混じりの肌の感触は信楽独特のもので、これがまた大いに古信楽の魅力をプラスしている。ときに降灰の自然釉は、いわゆるビードロ釉となって、さらに美しい景を加えている。』
 さすがに古信楽のやきものは所有していません。本ページでは現代作家の作品から特徴のある土味や窯変を観ていきたいと思います。

杉本貞光 信楽井戸茶碗

珍しい信楽焼の井戸茶碗です。窯変が凄くて、茶碗を回すと青紫色の焦げから青色さらにピンク色への変化しています。高台にわずかに土が出ていて きれいなオレンジ色に発色しています(写真1,2)。

谷本貴 伊賀花入

伊賀焼らしい変化のある花入です。正面と裏面の焼肌が全く異なります。 写真は裏面の基部を拡大したものです。裏面は全体に自然釉が掛かっておらず、伊賀の白い土肌がきれいです(写真2)。
写真3は正面側から見た耳の部分です。正面にかかった自然釉は白く発色しています。

高橋光三 信楽三角花入

この信楽の花入も三面が全く違った焼肌を呈しています。自然釉が全体に掛かっている面、還元炎によって真っ黒に焦げている面、そして土肌が青く窯変している面(写真)です。私はこの深い青色が大好きです。水につけておくとさらに深い色になります。粗い土肌に大きな長石が混じっています。長石が抜けた跡もありますね。右端の部分は自然ラスターと言って金色に輝いています。

神山清子 信楽面取り花入

この花入に自然釉は掛かっていませんが、表と裏では全く様相が異なります。 写真は紫色に窯変した面を拡大したものです。鎬によって区切られた細長い面によっても焼きや色が異なります。粗い土に白い長石が混じっています。

谷本景 伊賀砧花入

全体に還元炎によって青緑色に発色しています。引き出し焼成によってこのように変化したものと思います。粗い土味と凄まじい窯変です。この花入も水につけておくと しっとりとした雰囲気になります。

杉本貞光 信楽花入

この花入は、上から見るとひし形になっていて辺の長い稜線が花入の正面、もしくは裏面になります。 そして、稜線の左と右の面ですら焼肌が全く異なります。 写真1は正面の右の面で自然釉による窯変で青緑色になっています。 写真2は左の面で信楽の土肌を堪能できます。 なお、花入の裏面は写真には載せていませんが、焦げによって真黒です。

谷本光生 伊賀ぐい呑み

高台近くのオレンジ色に発色した土と焦げの対比が絶妙です(写真1)。 このぐい呑みは谷本光生氏の陶房を訪問したときに記念に購入したものです。光生氏の素晴らしい茶碗のミニチュアであると思います。

高橋楽斎 信楽人形花入

写真は花入れの底部で、「ら」の文字の陶印があります。信楽らしい土味でとても好きです。 こういった土味が花入に正面に欲しいのですが、ないものねだりですかね?

佐伯健剛 伊賀茶碗

茶碗をぐるっと回すと見る方向によってダイナミックに変化するお気に入りの茶碗です(写真2,3)。 写真の高台の周りも同様で、粗いざっくりとした土の色が、薄い茶色から緑色に変化しています(写真1)。