造り手のこだわり
(5)志野の絵付け
絵志野は鬼板を擦って絵具にし、素地を描きその上から厚い長石釉をかけて焼いたものです。
桃山陶や荒川豊蔵氏の志野茶碗の文様は いかにも素朴でおおらかなものが多いと思います。
志野茶碗には"山の端"や"橋の絵"がよく描かれます。
荒川豊蔵氏は著書の中で、「ありふれた田舎の、何でもない風景であるが、山の形がいかにも丸やかでやさしく美しい。このやさしさは、大萱・大平・五斗蒔(地名)のものだと思う。美濃の古陶に描かれている山と松はこのあたりの風景の写生そのままである。」と述べています(志野・織部の故郷より)。
私は 30年程前に初めて荒川豊蔵記念館を訪問した際に 近郷にまさにこのゆったりとした山(丘)と優しい松の風景に遭遇し、感激してそこに身を置く幸せを感じたことがあります。カメラを持っていなかったのが残念でなりません。
加藤唐九郎氏は 「あまり考えて描かんほうがいい。触れたところから描いていって絵具がなくなったころで終わればいい。
絵をよく知っているものが描くよりも、絵を知らないものが無理に描いたほうが面白いものだ。」とおっしゃっています。
これが私のようにセンスの無い者には難しいのです。現代作家の中では 茨城県の陶芸家 久保田耕一氏の絵付けが味があって良いと思います。
私は 伝統的な文様である"山の端"や"橋の絵"も描きますが、できるだけオリジナリティのある絵を描こうと思っています。
このとき 頭の中で考えるのではなくて 現物を見た上でシンプルで味のある絵付けを心がけていますが、なかなか難しいものです。
私は 新しい絵をいきなり描くことはできないので、あらかじめ墨で紙に描いた図案を検討します。
いくつか描いて妻に見せるとほとんどは「稚拙!」と言われてしまいます。
そのうち「まあまあ」と思える絵が描けたら 紙に何度も何度も描きます。本番ですらすらと描けるようにするためです。
それでも素焼きの器に鬼板の絵具で描くときには緊張します。
時には気に入らなくて何度も何度もやり直したり、結局諦めて別の文様にしたりと1年以上かかってしまうものもあります。
以下、伝統的な絵付け(現代作家のもの)と、私が工夫(苦労)したものを見ていただこうを思っています。
1.山の端
ぜひ 荒川豊蔵氏の山の絵 志野茶碗を見ていただきたいと思います。
さすがに豊蔵氏の作品は持っていないので、ここでは現代作家から若尾利貞氏の絵付けと、私の志野茶碗の絵付けを掲載しました。
2.橋の絵
橋の絵の素晴らしいものは、なんといっても豊蔵記念館にある志野の陶片です。
写真の絵付けは 加藤芳右衛門氏の志野茶碗です。緋色もきれいで素晴らしいと思います。
写真2枚目は 私の志野茶碗です。
3.梅の花
実家に梅の木があって 3月になると白い花を付けます(遅咲きです)。
写生をずいぶん行ったこともあり、志野茶碗にさらりと描くことができます。
4.ザクロ
実家の庭には大きなザクロの木があって 秋には実がたくさんなります。 近所にザクロの好きな子供がいて 持って行ってもらいます。 志野、黄瀬戸の茶碗にザクロの実を描くことが多いのですが、意外に難しいです。
5.ラン(蘭)
私のオリジナルの絵付けです。 眼をつぶってもさらり描けるように何度も何度も練習しました。
6.サギ(鷺)
白サギは 織部の皿や黒織部の茶碗に野点の傘と一緒によく描かれています。
今年2019年 松戸の21世紀の森と広場にて野生のサギが小川でのんびりしているのを見つけ、沢山の写真を撮ることができました。
写真2は そっと50cmまで近づいて撮ったものです。
今年度の多治見での穴窯焼成では サギの絵の志野茶碗を焼くことにしました(写真3)。とても楽しみです。
7.あやめ
あやめや菖蒲はときどき唐津の皿に描きます。
志野茶碗の絵付けにも良いかもしれません(写真2の左手前)。