唐津の土味
唐津のぐい吞み

土味に酔う(2) 唐津と益子の土

2021年11月投稿

土はやきもの造りの基本です。日本のやきものの特色はその土地によって産する土がまったく異なることです。例えば、信楽、美濃、萩、備前、唐津、益子などの産地によって土の種類や持ち味が違います。
この「土味に酔う」の特集では、茶陶に関して現代の陶芸作家の作品から「こだわりの土味」と思われるものを観ていくことにします。 第2回は唐津焼の土と益子の原土です。

 唐津の土
唐津焼の専門家によると、桃山時代の古唐津焼の土と現代作家の唐津焼の土とは全く別物だと言います。唐津の梶原靖元氏は、古唐津の土を陶石(砂岩)から造り再現した陶芸家として NHKの美の壺「唐津焼」の番組で紹介されました。
そもそも唐津の土は大量になくて、その土地で取れる雑多な土を総称しているのではないでしょうか? 斑唐津の土を除いて一般的な唐津の土は 鉄分が多くけっして良い土とは思えません。どれもその辺の山の崖にありそうな土です。
本ページで紹介する現代陶芸家は、様々な工夫をして その土の本来の姿と言いましょうか、まるで自然の中で見るかのような土味のある唐津焼を造っています。

丸田宗彦 唐津ぐい吞み

鉄分の多い黒褐色の粗い土です。高台の土肌はまるでクッキーのようです。ドロッとした青黒い釉薬も味があります(写真2)。

中川自然坊 唐津柿のへた向付

赤い土で唐津の中では珍しいと思います。中川氏の作品にこれと同じ土を使った奥高麗茶碗があります。それは素晴らしいものです。いつか手に入れたいと思っています。

岡本作礼 奥高麗茶碗

古色蒼然たるたたずまいを感じさせる土です。写真ではわかりずらいのですが、茶碗の底の陶印の左側の土は黒っぽい焦げが付いています。陶印から右側は赤褐色になっていて、炎の跡が表れています。 また、茶碗全体に釉薬が「かいらぎ」状になっています。これはろくろ成形後に素焼きをせずに釉薬をかけて焼成(生がけ)したためです。このように土の選定だけでなく、土味を生かす工夫が随所にあります。

岡本作礼 唐津井戸茶碗

上記奥高麗茶碗と同じ作家ですが、土が異なります。こちらは少し明るいオレンジ色のきめの細かい土をです。このように作家は、茶碗の種類によって土を使い分けています。

斑唐津酒杯と斑唐津の原土

斑唐津は一般的に鉄分の少ない白い砂目の土が使われます。 写真は 藤ノ木土平氏の斑唐津酒杯の土です。私はこの白く焼きしまった土が大好きです。
また、写真3は 唐津の陶芸家 川上清美氏が斑唐津用に使っている原土です。陶房の庭に積んであったのを記念に少しいただきました。

府川和泉 斑唐津花入れ

花入れの底を観ると砂目の粗い土です(写真1)。
写真2は花入れの正面下部を拡大したものです。
斑釉は部分的に青白く窯変しています(写真3)。

梶原靖元 唐津ぐい吞み

このぐい呑みは、岡本作礼さんの案内で梶原さんの陶房を訪ねたときに購入したものです。その後、NHKの番組「美の壺」で梶原さんが紹介されました。
この土は硬く締まっていて、他の唐津の陶芸家が使うものとは明らかに違います。

自作 斑唐津茶碗

唐津の陶芸家から購入した道納屋谷の土を使い、斑唐津釉を施釉して益子の登り窯で焼成したものです。この土は鉄分が少なく気に入っていたのですが、陶芸家が亡くなってしまい入手できなくなってしまいました。

 益子の原土
唐津の陶芸家から土を購入できなくなった後、いろいろと探して益子の原土に唐津焼のように焼けるものがあって最近はこの土を使っています。
益子焼協同組合では精製された市販の粘土を購入せず、その裏庭で 風雨にさらされた水簸(すいひ)する前の原土をスコップで掘ってきてそれを使っています。もちろん許可を得て土は有料です。この土堀りの作業はなかなか楽しいものです。一度、前日まで雨が降って水分をたっぷり含んだ土が重くて大変でした。
さて、この土は味はあるのですが、粗く、ねばりが少ないのでろくろ成形が難しくなります。このため皿や茶碗は厚造りになって手取りが重くなります。このように原土を使うことは利点もあるのですが、難しい面もあります。

自作 唐津茶碗

益子の原土を使った茶碗です。釉薬は桜灰釉です。

自作 唐津大皿

益子の原土を使った大皿です。土味もなかなかです。 この土は自作の桜灰釉との相性がとてもよく、登り窯焼成できれいに発色します(写真2)。 縁が厚かったため焼成によりひびが入りました。金継ぎで補修しました。