萩焼の器
備前の土肌
萩茶碗の高台

土味に酔う 萩焼と備前

2021年10月投稿

土はやきもの造りの基本です。日本のやきものの特色は、その土地によって土がまったく異なることです。
例えば、信楽、美濃、萩、備前、唐津、益子などの産地によって、土の種類や持ち味が違います。
 昔は土の精製技術が未発達であったため、その土地で掘ったままの土を使いました。このため作品には土味とか、暖かみがありました。辻清明氏は「旅行に行ったときは、その地方の壁とか、かまど(竈)を見れば、その土地の土を使っていて、やきものに使える土かどうかのだいたいの検討がつきます。」と言っています。私も地方に旅行に行ったときに やきものになりそうな土を観察したり、時にはビニール袋に土を入れて持ち帰ります。こうした土で造った作品もあります。
 しかし、現在 陶芸店で市販されている粘土は、精製されてきめの細かいきれいな土になり過ぎていて 土の持ち味がなくなっていると感じています。 陶芸家のほとんどは、自分で土を掘ることはなく、専門の業者に特別にブレンドした土を依頼しているようです。さらに、茶陶としての茶碗、水指、花入れ、ぐい呑みは土味の良いものを使い、食器などの器には精製された粘土を使っています。したがって、陶芸家が造る茶碗と、一般の人が趣味として市販の土を使って造る茶碗とは大きな隔たりがあります。
本ページでは、茶陶に関して現代の陶芸作家の作品から「こだわりの土味」と思われるものを観ていくことにします。第1回は萩焼と備前焼の土です。

 萩焼の土
萩焼の土は、主に3種類の土が使われます。大道土(Daido tuti)、三峯土(Mitake tuti)、見島土(Misima tuti)です。 坂田泥華著「日本の陶磁12 萩」から その特徴を抜粋します。
●大道土 --- 萩焼の陶土の主土は大道土でJR防府駅と新山口駅との間の大道、四辻付近に産する蛙目土(Gairome tuti)である。柔らかく温かい焼け味を示し、窯変が出るという特色がある。三峯土と合わせ、水漉しして使っている。
●三峯土 --- 萩の福栄村三峯山に産する黄桃色の土で、大道土や地方土(他の産地の土)の耐火度を補うために合わせて使うために重要な土である。
●三島土 --- 萩の沖にある見島の赤土で、大道土と合わせて刷毛目や、化粧掛けの素地として使う。例えば、三輪壽雪の鬼萩茶碗では、部分的に三島土をぬって、焼くと白い釉薬をはじいて黒色になりこれが景色になっています。
このように、萩焼では産地の異なる数種類の土をブレンドして使われるのが特徴です。
 萩の土は吸水性が強く、汚れやすいのが特徴です。「萩の七化け」と言われるように、抹茶碗は使い込んでいくうちに茶渋が土や貫入に入って 味が出てきます。しかし、ぐい呑みなどの酒器や皿は汚れやすく注意が必要です。

萩のぐい呑み

このぐい呑みは、私がやきものに興味を持つ以前から実家にあったもので、なんて汚い器だろうと思ったものです。かつて、私の父が山口に出張に行ったときに貰ったもののようです。
このぐい呑みも過去にあまりに汚れて、しかもカビが生えてしまい、自宅のガス窯で素焼きを行ってきれいにしたことが数回あります。

坂田泥華 井戸茶碗

高台近くは白萩釉が縮れていて僅かに土味を観ることができます。ピンク色に発色した柔らかで温かみのある土です。茶碗の端整な姿といい、土味を生かしていますよね。

椋原佳俊 鬼萩割高台茶碗

粗い赤褐色の土のところどころに黒い部分(おそらく意識的にぬった三島土)があり、大胆に切った割高台とともに豪快な雰囲気です。

吉野桃李 萩茶碗

2007年に茨城県陶芸美術館で開催された「三輪壽雪の世界」展を見に行ったときに、併設のショップで萩焼を販売していて購入したものです。 土は全体にオレンジ色に発色していて、半透明の白い釉薬とともに伝統的な萩焼の雰囲気です。

宇田川玄翁 白萩釉茶碗

お茶をたてて茶碗を手に取るとしっとりとした温もりがあります。これは柔らかな白萩釉と土によるものです。
高台の土は見た目はがっしりと締まっているようですが、実は極めて吸水性のある萩らしい土です。

 備前焼の土
備前の土は、山からではなくて田んぼの底から取ります。ヒヨセと呼ばれる田の底の土は真っ黒でみるからに鉄分が多いものです。
冬の間に掘り出し1~2年ぐらい風雨にさらしておき、十分に乾燥させてから細かく砕き、砂の全く混じらない土と、少々混じったものにふるい分けます。砕いた土は水槽に入れて1週間置き、そのあと素焼きの鉢に入れて適度な硬さになるまで水分を抜きます。これを足で踏んで(現在は機械で)良く練り合わせます。練り合わせた土はコンクリートのブロックぐらいの大きさにまとめ、さらに針金で5mm程度の厚さに薄く切り、指先でもむようにして小石や不純物を取り除きます。こうしておいて地下室に1~2年寝かせ 菌類が繁殖して土にねばりが出てくるまで待ちます。
備前の作家は、このように時間をかけて土をつくり、その土を将来の大切な財産として保管しています。

伊勢崎満 備前茶碗

写真1は茶碗正面の桧垣文付近の拡大です。ネットリとした赤い土肌です。
写真2は見込みです。金属のような硬質感があり、光の角度によって様々な色に変化します。

川端文雄 備前窯変花入れ

この花入れは変化に富んでいて、見どころが満載です。
写真は花入れの基部の拡大です。褐色の土肌と青緑色の窯変とのコントラストがきれいです。

中村和樹 備前茶碗

茶碗の見込みの写真です。見込みの写真は、照明が均等にあたらないためけっこう苦労します。備前の観音土と言われる赤褐色の土味が好みです。まさにオタクの世界です。
父の中村真氏の花入れも持っています。"かせた"とでも言いましょうか? 土肌に独特の雰囲気があります。

藤見俊一 備前すり鉢

すり鉢の内側の写真です。見込みの中心から縁にかけて土色が徐々に変化していてきれいです。このように微小領域のダイナミックな変化を楽しめるのが備前焼だと思います。

正宗悟 備前耳付花入れ

写真1は花入れの底です。その土の色は緋色に近く、備前焼の中でも独特です。
この花入は、雰囲気の良い姿、柔らかの口造り、豪快な耳、そして緋色の土味と備前焼の良いところをふんだんに備えています。