普段使いの湯吞

普段使いの湯吞

2021年12月投稿

 初めに
長男が幼少の頃から使っていた湯飲みを割ってしまいました。3人でお茶を飲んで湯飲みを洗って新聞紙の上に逆さまにして乾かして置いたのですが、妻が下に敷いた新聞を取ろうとして落としたらしい。無残に割れた破片と湯飲みの底まで達しているヒビを見てがっくりしてしまいました。
そこで、実家にある長男用の湯飲みを持ってきてこちらで使うことにしました。会津本郷の宗像窯の瑠璃色の湯飲みで緑茶を入れるとその色が映えて美しい。この美しさを写真で表現できないものだろうか? 試みたのが冒頭の写真です。
 と同時に 普段使っていて話題に上らない器、すなわち湯吞に焦点をあてることを思い付きました。 私は特に益子焼の湯吞が好きです。益子に行くと手頃な値段のものをついつい買ってしまいます。有名作家のものは高価ですが、一般的に個人作家のものでも3000円くらいで良いものが買えます。窯元の湯吞であれば1000円程度からあります。バラエティーに富んでいて、見ていて楽しくなります。 このようにして益子だけではなくて沢山の湯吞が集まったのですが、家族で普段使っている湯吞は3個ほどです。私の場合、煎茶をお代わりするときに別の湯吞を使います。それも4個ほどあってその日の気分で選びます。
湯吞はほとんど毎日使います。あまりに普段使いで話題に上らないものですが、なかなか面白そうなので本ページの前半で紹介することにしました。

さて、無残に割れた黄瀬戸の湯飲みは30年ほど前に多治見の美濃焼園で購入しました大嶋久興氏のものです。長男が生まれてからずっとこの湯飲みを使っていて、黄瀬戸釉の変化を長年楽しんでいました。あまりに派手に割ってしまったので補修が大変そうで気が乗らないのですが、時間をかけてのんびり繕うことにしました。本ページの後半では漆で補修する過程を写真で詳細に記録することにしました。

 普段使いの湯吞

家族それぞれ

私は萩焼の湯飲み(写真左 吉野桃李 作)、妻が紅志野(写真右 加藤健 作)、長男は黄瀬戸(写真中央 大嶋久興 作)のものを長年使っています。 妻の湯飲みは、私達が初めて多治見に行ったときに街道沿いの掘っ建て小屋の店で購入したもので、かれこれ30年以上使っています。

益子焼の湯吞

私は益子焼の湯飲みを2杯目に使っています。
左の湯吞は、濱田晋作のご子息である濱田友緒氏のものです。益子の伝統と新しさが融合したポップなデザインで良いですよね。
右側の飴釉の湯飲みは大塚健一氏のものです。私はこの飴釉が大好きです。
写真後方の汲み出しは村田浩さんのものです。母が来た時や来客用に使っています。シンプルな並白釉でいかにも益子焼といった雰囲気です。

会津本郷焼の湯吞

こちらも2杯目用の湯吞です。左側の湯吞は、羽鳥湖高原から会津本郷へ行く途中の会津下郷の陶芸家から購入したものです。この釉薬は会津特産のソバの灰釉を使っています。後方の皿も同様で皿の上から下へ焦げ茶色から白色に変化しながら流れているのがソバ釉です。この作家はすでに亡くなっていてもう作品を入手できません。
中央と右側の湯吞は会津本郷の宗像窯のものです。この瑠璃色の釉薬が好きでコーヒー碗や皿も使っています。写真2枚目は会津本郷のそば畑です。

益子の湯吞(2)

この湯吞と急須は、初めて益子に行ったときに共販センターの個展会場で購入したものです。 花の絵が素敵でお揃いで購入しました。湯吞はろくろ目がゆったりとしていて、口づくりも緊張感はなくのどかな雰囲気です。 急須の方は使っているうちに釉薬に変化、小さな斑点などが出てきてなかなか味があります(写真2)。

 黄瀬戸の湯吞を漆で継ぐ
以下、漆で継ぐ工程を説明します。

無残に割れた湯吞

派手に割ってくれました。ヒビは底まで達しています。

(1)ヒビ及び割れたパーツの加工

ヒビに沿って、尖ったヤスリをあてて小さなV溝を作ります。これは漆を入りやすくするためです。 また、割れたパーツの断面、特にエッジをヤスリで削ります。

(2)ヒビに漆を入れる

ヒビに、テンピン油と透漆を1:1に混ぜたものを筆で使って入れます。余分にはみ出たものをティシュでふき取ります。 なお、テンピン油は有機溶剤で毒性がありますので取り扱いに注意してください。 1日乾燥させます。
さらに、ヒビと、割れたパーツの断面に透漆を塗って、1日間乾燥させます。

(3)麦漆(mugiurushi)で接合

麦漆は、小麦粉に少量の水を加え柔らかくしてから、粘りを見ながら透漆を少しづつ加えて作ります。
麦漆を割れたパーツの断面に塗って30分待ってからパーツを接合します。乾燥に2週間かけます。

(4)錆漆(sabiUrushi)付け

仕上がりを良くするために錆漆付けをして、乾燥に4~5日かけます。
錆漆は、砥粉(とのこ)に水を加えてペースト状にして、透漆を5割加えて練り合わせてつくります。 それを竹べらで大胆に塗ってから、エタノールに浸した綿棒で拭いていくと、余分な部分が除かれて割れた部分の錆漆が残ってきれいになります。

(5)錆研ぎ(sabiTogi)と塗り(Nuri) 完成

錆漆が乾燥したら、砥石で錆漆を付けた部分が平滑になるように丁寧に研ぎます。
そして、弁柄漆を薄く均一に塗ります。乾燥に3~4日かけます。 そして、完成!
金継ぎでは、この後の工程として弁柄漆を砥石できれいに研いで金粉蒔きをするのですが、今回は金粉蒔きをせずに、弁柄漆で完成としました。