女郎花とベニシジミ

秋の七草をもとめて

2024年10月投稿

私が秋の七草に興味をもったのは、やはり焼き物を通じてです。 Blog「高麗茶碗を学ぶ」で述べたように、青磁象嵌の盃が高麗茶碗として伝世されたもののなかに、狂言袴茶碗 銘「藤袴」というものがあります。
『狂言袴とは、筒型で茶碗の外周に白黒象嵌で鶴や花、雲などが施された茶碗のことで、その文様が狂言師の袴の紋に似ていることからつけられた名称とされている。織田信長の弟で、千利休に茶を学んだ織田有楽が所持していた茶碗である。藤袴は山上憶良が万葉集のなかで選んだ秋の七草の一つで、その名は藤色をした花の色と花弁が袴のような形をしていることに由来するとされる。』
そこで、昨年10月中旬に21世紀の森と広場(松戸市)へフジバカマを観察しにいきました。小さな花の集合で派手さはなく楚々とした雰囲気です。目を凝らして見ると、小さな花から長く白い花弁が2本づつ出ていて、たぶん古人はこの姿を袴として捉えたのですね。古くから日本人に愛されてきたキク科の植物との説明があります。
 その後、秋の七草の写真を撮ろうと計画したのですが、七草の女郎花(おみなえし)、すすき、桔梗、なでしこ、藤袴、葛、萩のすべての開花時期が同じはないことを知りました。ちなみに覚えかたは、上記頭文字をとって「お好きな服は」だそうです。もちろん時期を選んで向島百花園や東宮東御苑の庭園に行けば秋の七草すべてを観られるのかもしれませんが、やはり自然の中で探すのが醍醐味ではないでしょうか。

 一、葛 (Kuzu)
さて、探すのに最も苦労したのが葛の花です。今年8月末に21世紀の森と広場に行ったとき、おみなえしと萩は咲いていたのですが葛は見つかりませんでした。そして、毎日の散歩の度にコースをかえて葛がありそうな場所を歩き回りました。葛の花を探して猛暑の中を歩き回るのも大変です。そろそろあきらめかけていたときに家の近所にある寺に行ったところ、その駐車場の端の大木の下に葛があったのです。一見するとつるの雑草です。しかし、その中にかすかに赤紫色の花が見えたときにはうれしかったこと。
そして、9月に再び21世紀の森と広場に行くとなんと葛の花を見つけることができました。葛を見つけるコツがあるようです。日当たりの良い場所で大木の根本に繁茂するつる草を探すのがよいことがわかりました。

やっと見つけた葛の花

21世紀の森と広場(松戸市)2024年9月5日撮影
写真3 --- 全体はどう見てもつるの雑草にしか見えません。

 二、なでしこ (Nadeshiko)
美しい花で洋花かと思っていたら、在来種なんですね。我が子を撫でるようにかわいい花であるところからこの名が付いたとの説明があります。
 「お地蔵や
 花なでしこの 真ん中に」 小林一茶
標高800mの羽鳥湖高原(福島県)では7月~8月初旬にあちこちで見ることができます。赤紫、ピンク、白色。私は清楚な白色がすきです。

河原撫子

花弁が細かく糸状に裂けるのが特徴です。
写真1,2 --- 羽鳥湖高原 2019.8.8.撮影
写真3 --- 21世紀の森と広場 2024.7.5.

 三、桔梗(Kikyo)
明智光秀の家紋が桔梗紋であることを思い浮かべます。
秩父の寺巡りをしたときには各寺の境内に必ず植わっていました。 この花は比較的大きいので写真撮影が容易です。 桔梗紋

鮮やかな夏の花

写真1 --- 21世紀の森と広場 2024.7.5.撮影
蓮の花を見に行ったときに小橋のたもとに咲いていました。鮮やかです。
写真2 --- 秩父の寺にて 2023.7.9.撮影

 四、萩(Hagi)
21世紀の森と広場の遊歩道の脇にあって散歩する人がけっこう通るのですが、足を止める人はほとんどいません。花が小さく目立たないせいでしょうか。花は蝶型の面白い姿です。葉の形は楕円で小さな葉が3つつきチャーミングです。小さな花を撮るためにマイクロレンズを使いましたが、風で揺れる花を撮るのに苦労しました。
 「一家(ひとつや)に
 遊女も寝たり 萩と月」 松尾芭蕉 奥の細道

可憐な紅色

写真 1,2 --- 21世紀の森と広場 2024.8.29.撮影
写真3 --- 羽鳥湖高原 2022.8.13.

 五、おみなえし(Ominaeshi)
5弁からなる小さな花の集合体です。黄色で目立つため遠くからでも見つけられます。このような花の集合体を写真に撮るのはなかなか難しいです。ピントが合っているところとボケているところが必ず出てしまいますので。
漢字で「女郎花」と書くようになったのは平安時代の半ばからと言われています。

山野に映える黄色

写真1 --- 羽鳥湖高原 2019.8.6.撮影
この写真はなかなか良く撮れていると思います。
写真2,3 --- 21世紀の森と広場 2024.9.5.撮影
美しいベニシジミと大きなハチが おみなえしの蜜を吸うのに懸命で、しまいにハチあわせをしてしまいました(写真3)。

 六、藤袴(Fujibakama)
狂言袴茶碗 銘「藤袴」から秋の七草に興味をもち、最初に探しにいった花です。とても小さな花でよほどじっくり目をこらさないと花弁が袴のような形をしていることを認識できません。

藤色のはかまを想像

21世紀の森と広場 2023.10.13.撮影
写真2--- 花を拡大したものです。古人の想像力はすごい !

 七、すすき(Susuki)
秋の七草の最後はすすきです。すすきの花は?と調べてみると「すすきの白い穂は花の集まりです。秋が深まると花は綿毛をつけた種子に変わり風に乗って飛んでいきます。」とあります。
私は若い頃からすすきに愛着はないようです。仙石原のすすきの原に行ってもどこが良いのわからなかったのです。 ところが、撮りためた花の写真にすすきは結構あります。 また、秋の羽鳥湖高原で野の花を花入に入れるとき、必ず すすきを真として中央に配置します。

すすきのコレクション

写真1 --- 南房総 抱湖園 2016.12.31.撮影
見晴台にむかう登山道の階段に1本のすすきがありました。人がめったに入らないようです。
写真2 --- 羽鳥湖高原 2017.9.15.
写真3 --- 御冥坂(松戸市)2019.2.25.
あまりに立派だったので撮りました。

秋の羽鳥湖高原にて

備前焼の藤原建さんの花入に野の花をいれました。